2020年の秋
近江八景を行く(2)瀬田夕照(せきしょう)その2
本家「夕照」と琵琶湖の夕照
13世紀に中国の画家牧谿が描いた瀟湘八景の内で「夕照」の絵は幸いにも現存する。
現物は国宝で根津美術館に保存収蔵されており、ネット上でも観ることが出来る。
2012年4月発行ジパング俱楽部特集記事〝天晴れ八景〟の中に掲載された瀟湘八景の紹介写真が下に挙げた「漁村夕照」の絵であった。
800年以上の年月を経ているので色彩の劣化は免れないものと考えられるが、夕照の命は水辺に輝く紅を帯びた夕べの色感であるとすれば、作画当時には画幅左上中部の水辺上空は薄紅く輝いていたのではないかと想像している。
近江八景画における日本の先駆者土佐光起と桃田柳栄の絵は既に前号で紹介したが特別に赤みを強調していない。浮世絵ではあるが広重の瀬田夕照では主体の黄色に赤を加えて夕焼けの気分を描き出している。
八景の作者が課題に基づく情景を詠むにあたって場所の選定は不可分であるが、瀟湘八景は自然界の瞬時の変化を捉える詩的描写を求めており、近衛信伊もこれに応えて〈夕日のわたる瀬田の長橋〉と僅かな時空に出現する夕べの輝きを詠み上げている。
下の絵は江戸時代中期(18世紀)の画家土佐慶琢が描いた近江八景・瀬田夕照である。山の端に沈む太陽と赤い夕陽が瀬田の長橋に注ぐ情景が描かれている。但し東北に当たる三上山の裾野彼方に沈む太陽が描かれており、方角観念を無視した合成画であることは場所がら止むを得ない作品である。
次に掲出する絵は明治32年(1899)に野村文挙によって描かれた近江八景圖の瀬田夕照で瀟湘八景の夕照基準に則った情景描写がよく表れて美しい。
夕照とはこんな情景であろうという想念を感じさせてくれる名作であると思っている。
野村文挙画 近江八景画 瀬田夕照 原画滋賀県立近代美術館所蔵
現在の瀬田川昼間の風景