2020年の秋

近江八景を行く(3)石山秋月 その1

跡地今昔 2020年11月28日午前11時過ぎ 石山寺を訪問 曇り空

 次の情景は石山秋月である。近江八景では一番南に位置するため最初に並べられる場合も多く、私も従来はこの順に従っていた。今回は東湖岸からのスタートであったので第3景としての登場である。

 近江八景の選定場所の中では三井寺と並んだ歴史的な古刹で、現代に至るも多くの人々が訪れる観光名所である。私も過去数回に亘って訪れているが、近江八景の秋月と結び付けた事はなく、むしろ関心は紫式部源氏物語にあったと云っても過言ではない。琵琶湖の上空に姿を見せる仲秋の名月を題材にする場所を石山寺に選んだ近衛信伊の感性も紫式部の面影に魅かれたのが強かったのではないかと楽しく想像している。 

近江八景・石山秋月の和歌は以下のとおりである。

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          ㊟にほ(鳰)のうみ=琵琶湖のこと

 和歌の解釈を敢えてするまでもないが、うみてるの〈てる〉は湖と月の照り双方に掛けており、〈明石とすま〉は言うまでもなく源氏物語の「明石」の巻「須磨」の巻と海の情景の双方を掛けている。

 なお〈秋月〉は八景の中では最も普遍的な課題であるため、日本で詠われ描かれた八景文献の中では殆ど必携的な課題として登場している。その根源が近衛信伊の石山秋月である。

 後世の画家たちが描いた石山寺と〈月影〉を観ながら、信伊の秋月に近付きたい。 

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土佐光起 近江八景画巻(部分)石山秋月 承応3年~元禄4年(1654~1691)個人蔵 
 (大津市歴史博物館企画展近江八景の写真より引用・以下同じ)

 峻険な石山寺に見えるのは多宝塔と本堂か?近江富士(三上山)と雲間に姿を現した月影が湖面の存在を浮かび上げている。蓋し名画である。

 

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桃田柳栄 近江八景画巻(部分)石山秋月 貞享元年(1684)大津市歴史博物館所蔵

画巻の部分であるため琵琶湖の雰囲気が描かれていないのが淋しい。

 

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吉田元陳 近江八景画巻(部分) 宝暦7年~明和3年(1757~1766)個人蔵 

 

公卿の描いた雅な近江八景絵巻の部分画である。石山寺の上空に現れた仲秋の名月を描いた八景画で、こちらも琵琶湖(にほ鳰)のうみの雰囲気はない。但し実際の情景把握では石山寺から月影を通して琵琶湖を感受することは地形上不可能であったと思われるので、この絵の如くに表現されたものと思っている。