2020年の秋
近江八景を行く(5) 三井晩鐘 その1
跡地今昔 2020年11月27日 午前11時 三井寺訪問 晴天
近江八景では三井晩鐘として登場するが課題には視覚的情景を伴わない特殊な景観である。元祖瀟湘八景では〈煙寺晩鐘〉として場所が特定されておらず、ただ遠くのお寺から聴こえてくる鐘の音を指しており、響きを通して寺院と周辺集落の雰囲気や人の心の動きを描く心因的な情景描写を主眼とした八景観が求められている。八景課題としては難しい存在であるが日本においては好んで受け入れられており、全国各地における八景構成でも秋月などと共に組み込まれるのが多い課題である。三井晩鐘は位置的にも思想的にも近江八景の中核に存在する課題で、近衛信伊の和歌も三井寺の鐘の音が齎す心の動きを奥深く詠み込んでいる。後の世の画家たちは描写困難な内面的画題に挑戦することになったと思っている。
三井晩鐘
土佐光起 近江八景画巻(部分)三井晩鐘 承応3年~元禄4年(1654~1691)個人蔵
三井寺の仁王門、金堂はじめ伽藍と山岳境内に焦点を当て周辺の集落は描かれていない。奥深く神秘な山寺から鳴り響く鐘の音を感じさせている。
桃田柳栄 近江八景画巻(部分)三井晩鐘 貞享元年(1684)大津市歴史博物館所蔵
こちらは伽藍を雲中に配して鐘の音の鳴り響く集落に画幅を広げている。湖岸に広がる門前町が穏やかな夕暮れを迎えているようである。
三井寺の鐘は今も鳴り続け、日本の残したい音風景百選に選ばれている。