2020年の秋
近江八景を行く(8)比良暮雪 その2
浮世絵の世界
近江八景之内(栄久堂板)比良暮雪 天保5年(1834)
大津歴史博物館発売の絵葉書より複写(原本・大津市歴史博物館所蔵)
比良山系の山々が嶮しく描かれているところが特徴で、厳しい冬を耐え抜く湖岸の集落にも積雪の季節感が漂っている。添えられている近衛信伊の和歌とは少し異なる感情を与える絵であるが、数ある浮世絵・比良暮雪の中ではやはり出色で構成力が大きく見る人を引き付ける作品であると思っている。
近江八景(魚栄板)比良暮雪安政4年(1857)
大津歴史博物館発売の絵葉書より複写(原本・大津市歴史博物館所蔵)
こちらも広重の作品であるが、構図が決められた魚栄板であるため比良山の情景はデフォルメされて描かれている。対岸は沖ノ島で左の高嶺は三上山と思われる。
湖を取り巻く雪山の景色は厳しいが雪解けも見られ、絵全体からは何となく春の兆しが感じられてくる。
歌川国長の浮世絵・比良暮雪
歌川国長 近江八景 比良暮雪 江戸時代(18世紀)
大津市歴史博物館企画展近江八景より(原本・大津市歴史博物館所蔵)
歌川国長は18世紀末から19世紀初めにかけて活躍した江戸の浮世絵師である。生年・没年は不明で作品には東海道五十三次も含まれている。参考までに草津宿の絵が見付かったので併掲する。歌川広重より10年か20年ぐらい前に多くの作品を描いている。広重と較べると作風が初歩的である事が良く分かる。比良暮雪の絵も同様であるが麓の集落の雪景色が中心で比良山は添えられた格好で描かれている。
比良暮雪・遊女版二題
歌川広重(藤慶板)比良暮雪 草津市蔵 歌川国貞(豊国Ⅲ)比良暮雪 大津市歴史博物館蔵
双方とも手前の置かれているのは雪の塊である。広重の絵ではうちわの先に火鉢(火起こし)に載せられた急須が描かれている。溶かした雪で茶を淹れるのが風流であったのか、比良暮雪の絵を前にして遊びであったと思われる。国貞の絵には近衛信伊の和歌が添えられているが広重の絵にはない。比良山の情景は広重の方が細やかに描かれている。