2020年の秋
近江八景を行く(3)石山秋月 その2
浮世絵と近代の絵姿
石山秋月は近江八景の中でも抜群の知名度があり、画題として秀でた存在である。それだけに多くの絵画が残されているが、近世以降ではやはり歌川広重の作品が最も親しまれている。
下は天保5年(1834)に出版された近江八景・石山秋月(保永堂板)である。
峻険な硅灰石の伽藍山を大きく前面に据えた豪快な構図で、上空に浮かぶ名月と月明かりに姿を見せる瀬田川から琵琶湖東岸の遠望は迫力満点である。近江八景の名に相応しい情景であるが、現実には見ることが出来ない創作画で、それがまた浮世絵の楽しい所である。
大津市歴史博物館発売絵葉書より複写(原画・大津市歴史博物館所蔵)
次も同じく歌川広重の浮世絵で安政4年(1857)に出版された近江八景・石山秋月(魚栄板)である。構図の基本は同じであるが景観に高さが強調され月が石山の上空に上り詰めている情景が顕著で琵琶湖を望む遠景にも広がりがある。石山寺の描写も細やかで澄んだ夜空に映える伽藍や木立の情景が浮き出ていて美しい。広重の近江八景の中でも際立った作品ではないかと思っている。
大津市歴史博物館発売絵葉書より複写(原画・大津市歴史博物館所蔵)
石山寺の頂上には古くから月見亭が建てられている。そこから眺めた実際の光景がびわ湖大津観光協会(公益社団法人)発行の「近江八景見聞録」に掲載されているので引用した。
石山寺月見亭での〈お月見の宴〉の様子
月見亭の今昔
寺伝によれば月見亭は後白河上皇(1155~1192)が石山寺に行幸された時に建立されたと云われており、幾度かの建て替えを経て現在に至っている。現存する月見亭は昭和4年(1929)の建造で既に90年を超えている。
石山寺月見亭(先代) 明治末期ごろの絵葉書より 現在の月見亭
多宝塔
石山寺の山頂部に有り本堂等と共に国宝に指定されている。建造は建久5年(1194)、源頼朝寄贈によるもので日本最古の多宝塔として広く知られてえいる。
石山寺の多宝塔(国宝)
下は明治32年(1899)に描かれた野村文挙による近江八景・石山秋月である。紅葉に染まる伽藍、硅灰石を含む石山寺全景と瀬田川・琵琶湖と背後の山々に注ぐ月明かりが冴えており、正に一幅の景観画である。