2020年の秋
浮世絵と近代の絵
大津市歴史博物館発売の絵葉書より複写 (原本・大津市歴史博物館所蔵)
小さく突き出た浮御堂と周辺の葦原に舞い降りる雁の群れが主題であるが、背景の山々と遥かなる舟運風景と広々とした琵琶湖の風景が近江八景の景観美を物語っている。矢橋帰帆、粟津晴嵐、瀬田夕照と共に湖面と舟を組み合わせた作品で、いずれも優劣つけ難く、広重の表現力の豊かさを痛感する。
大津市歴史博物館発売の絵葉書より複写
魚栄板は浮御堂と落雁に焦点が当てられた作品である。魚栄板に共通した構図で纏められているためどちらかと云えば平凡化は免れない。絵の方角から判断して正面に聳える山は三上山であると思われる。
下の絵は遊女・芸者をモデルに入れた藤慶板の一連の近江八景画で別の趣きがある。八景の絵は添え画で小型であるが風景の描き方はかなり精密で、雁が列をなして浮御堂脇の葦原に向かって舞い降りて来る様子は迫力に富んでいる。遊女が筆を咥えて反物を見ている所作が何を暗示するのか私には分からない。着物の裾模様に水に遊ぶ雁が描かれており芸が細やかである。
堅田萬月寺に伝わる刷り絵で浮御堂を中心に近江八景の各景観地を取り入れた広域画である。作者の虵足軒霞粛は調べてみたが分からない。膳所城が描かれているので徳川家康以降の江戸時代であることは確実であるが詳しい年代は分からない。
琵琶湖西岸の堅田から左右正面に比良山・石山寺・矢橋湊までを入れ込んだ近江八景全体が描かれており位置関係が良く分かる。特に対岸から瀬田川に至る矢橋帰帆と瀬田夕照と石山秋月と粟津晴嵐の位置関係がうまく描かれており浮世絵とは一味違った趣を与えて呉れている。彩色刷りの浮世絵と違って安価であり景勝地のお土産などにも使われたのではないかと思っている。
満月寺・浮御堂
昔の今も浮御堂はやはり琵琶湖を代表する景観である。ただ昔の絵には浮御堂周辺に葦が生えているのが確認されそこに雁が舞い降りているが、現在は湖面に葦は見当たらない。